Portrait in Jazz    ポートレイト・イン・ジャズ

    和田 誠  村上 春樹 著

 

幾冊かののポートレイト・イン・ジャズの著書が

あるようなので本の顔を写真に写しました。

 

著者はすべてLPとして語られていますが、こちらはすべてCDです。

 

スタン・ゲッツ/アット・ストーリーヴィルVOL.1&2

➄「ムーヴ」

  スタン・ゲッツの作品はなんといってもジャズ・クラブ〈アット・ストリーヴィル〉における2枚のライヴ盤だ。たとえば「ムーヴ」を聴いてほしい。p45

  スタン・ゲッツはテナーサックスをあたかも神意から授かった声帯のように自在にあやつって、鮮やかな至福に満ちた無言歌を紡いだ。p44

  アル・ヘイグ、ジミー・レイニー、テディ・コティツク、タイニー・カーンのリズムセクションは息を呑むほど完璧である。とびきりクールで簡素にして、同時に地中の溶岩のようにホットなリズムを彼らは一体となってひもとく。

  しかしそれ以上に遥かに、ゲッツの演奏は見事だ。p46

 

チュー・ベリー/❝CHU❞

ファンのあいだで「猫のチューベリー」と呼ばれているエピックのLPだ。P57

 僕らはスイングの円熟からパップの萌芽へと徐々に移行していく音楽シーンの息吹を、楽しくかいま見ることができる。P58

 とくにチュー・ベリーは脂の乗りきった、実にジューシーな演奏を聴かせてくれる。p58

 

チャールズ・ミンガス/直立猿人 (jazz1)
②「フォギー・デイ(霧深き日)」

 とくに「フォギー・デイ」のしつこくって騒々しいユーモア感覚には、とてもついていけなかった。どうしてこんな端正な曲を、ここまで歪めてしまわなくてはならないんだと僕はそのとき思った。

 でも年齢を重ねるにしたがって、このレコードは知らず知らず僕の心に食い込んでいった。p62

 

ビル・エヴァンス/ワルツ・フォー・デビィ (jazz2)

①「マイ・フーリッシュ・ハート」

 ピアニスト、ビル・エヴァンスの有する資質の最良の部分が、ピアノトリオというフォーマットの中に出てきたことは、衆目のいっちするところである。それも限定するなら、スコット・ラファロをベーシストに迎えたピアノトリオということになる。p72

 スコット・ラファロの春のようにみずみずしく、また森のように深いベース・プレイである。

 その新鮮な息吹は、僕らのまわりを囲んでいる世俗的なバリアを静かに解き、奥にある魂を震わせる。この時点ではエヴァンスなくしてラファロなく、ラファロなくしてエヴァンスなしーーーまさに一世一代、奇跡的な邂逅といってもさしつかえないだろう。p73

 僕が好きなのは「マイ・フーリッシュ・ハート」甘い曲、たしかにそうだ、しかしここまで肉体に食い込まれると、もう何も言えないというところもある。p76

 

マイルス・デイビス/フォア・アンド・モア

②「ウォーキン」

マイルスの演奏は深く痛烈である。彼の設定したテンポは異様なばかり速く、ほとんど喧嘩腰と言ってもいいくらいだ。トニー・ウィリアムスの刻む、白い三日月のような怜悧なリズムを背後に受けながら、マイルスはその魔術の楔を、空間の目につく限りの隙間に容赦なくたたき込んでいく。p105

 ウォーキンを聴きながら(それはマイルスが録音した中でいちばんハードで攻撃的な「ウォーキン」だ)、p106

 

エリック・ドルフィー/アウト・ゼア

(モダンジャズのたのしみ)

エリック・ドルフィーといえば、ほとんど反射的にこの『アウト・ゼア』というプレステッジ初期のLPが僕の頭に浮かぶ。p114

 エリック・ドルフィーという人のユニークにして、アヴァンギャルドにして真面目にして、あくまで個人的にして、そしてまたいささかの胡散臭さ(良くも悪くも)を含んだ芸風に、この絵のトーンが、巧いとは言えないなりにも不思議なくらいしっくりと寄り添っているからじゃないかと、僕は考えている。p117

 僕らは多かれ少なかれ、みんな宇宙の場末に生きているのかもしれない。エリック・ドルフィーを聴くたびに、そう思わなくもない。

 デイジー・ガレスピー・アット・ニューポート

このニューポートのライヴ盤では、リー・モーガン、ベニー・ゴルソンというばりばりの若手を擁して、オルガナイザーとしての、またソロイストとしてのガレスピーの戦闘性と底力をーーー解体と総合をーーー存分に味わえる。p142

 

デクスター・ゴードン/ホームカミング

ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード

デクスター・ゴードンは、僕にいつも樹木のイメージを抱かせる。それも野原の真ん中にそびえる、大きな樫の古木だ。背が高く、帽子がよく似合う、ハンサムで寡黙でクールなテナーマン、デクスター・ゴードン。p144

 久方ぶりにアメリカに戻ってきて、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードのステージにあがり、いつになくぐっと前のめりに、エキサイティングに吹きまくる。そこにはまぎれもなく、煙硝(ガンスモーク)の匂いがある。p148

 

セロニアス・モンク/5バイ・モンク・バイ5

 セロニアス・モンクの音楽の響きに、宿命的に惹かれた時期があった。奇妙な角度で硬い氷を有効に鑿削るーーーピアノの音を聴くたびに「これがジャズなんだ」と思った。それによって温かく励まされさえした。p156

 5 by Monk by 5というタイトルのLPを買ったのは、店主に説教されて、無理矢理買わされた。まったく変なオヤジだった。でもたしかに言われたとおりだった。どれだけ聴いても聴き飽きしなかった。p160

 

レスター・ヤング~テディ・ウイルソン/

プレス・アンド・テディ

③「ルイーズ」

僕はレスター・ヤングのプレイに個人的にいちばん強く惹かれる。p162

 テディ・ウイルソンがらみのセッション『プレス・アンド・テディ』とくにバラード「ルイーズ」におけるレスターの音色の温かさは、一度聴いたら忘れられない。音楽がそのまま自然に彼の身体を通過して、体温を失わぬままにまわりの空間にすうっとあふれ出てくるような、そんなかじだ。p166

 ある人はレスターについて回想している。「安物の楽器を、輪ゴムやら糊やらガムなんかでくっつけ合わせているんだ。でもそこから生まれる音楽は、ほんとうに素晴らしかった」好漢レスター・ヤングについて語られるエピソードの中で、僕はこれがいちばん好きだ。p166

 

ソニー・ロリンズ/橋

 ロリンズは違う。1階からエレエレベーターに乗って、次にドアが開いたら唐突に36階だった、というようにやみくもな部分がある。p170

 彼のアルバムの中で好んで聴くのは、もっとも長い沈黙から復帰した直後に吹き込まれた「橋」だ。音の縦方向の配列が生き生きとして、音のひとつひとつにこれまでにないどろんとした芯があり、それでいて本来のスピードは失われず、陰影を含んだ内省が漂っている。p172

「橋」を聴くたびに、僕は不思議に励まされる。p172

 

ホレス・シルヴァー/

ソング・フォー・マイ・ファーザー

 

ホレス・シルヴァーのパーソナルな世界が鮮やかに、いくぶん魔術的に展開される。メロディーはキャッチーだけど、けっこう底は深い。p177

 若き日のジョー・ヘンダーソンの吹き上げるぶっきらぼうな、切れ込みの鋭いテナートーンもしっかりと耳を澄ませるだけの価値がある。空きっ腹で聴いたら、お腹にずしりとこたえそうなサウンドだ。p178

 

ウェス・モンゴメリー/フル・ハウス (jazz5)

 

ウェス・モンゴメリーのギターを初めて聴いたときに感じたのは、この人の演奏はほかの誰ともぜんぜん違うということだった。トーンといい、奏法といい、まったく新鮮そのものだった。それも苦労して頭で考えて創出されたものというより、どこかそのへんから自然に自由にわき出てきたというおおらかな雰囲気があり、いや、これはすごいなと感心しないわけにはいかなかった。考えてみればウェス・モンゴメリーには、最後までほぼ感心しっぱなしだったみたいな気もするけど。p204

 そのような彼の自然児的な魅力が良いかたちで溢れているのは、やっぱりライヴ盤の『フル・ハウス』でジョニー・グリフィンの熱く無駄のないテナーの助けもあって、実に見事な出来になっている。p204

 

クリフォード・ブラウン/スタディ・イン・ブラウン

僕はいつも思うのだけど、残されたレコードで聴くかぎり、クリフォード・ブラウンくらい音楽的に密度の高いジャズ・プレイヤーはほかにはいない。どのアルバムも見事に質が高く、熱くエモーショナルで、しかも優れて革新的であるレコーディングをおこなった期間は全部あわせて4年間しかないが、ブラウンはそのあいだ目につくすべての機会をとらえ身を削るように目一杯吹きまくり、ひときれの挫折もなく迷いもなく、まさに絶頂というところで交通事故にあって亡くなってしまった。p210

 僕がいちばん好きな彼のアルバムは『スタディ・イン・ブラウン』だ。僕は学生時代に買った国内盤を後生大事に聴いていたのだけれど、何年か前にボストンの中古レコード屋で、このエマーシーのオリジナル盤が3ドル99セントで売られていたのを見つけて買ってきた。p212

 それは嬉しかったですよ。p212


アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズ
チュニジアの夜

 

ボビー・ティモンズには自己名義の楽しいピアノ・トリオのアルバムがあるが。音楽的スリルという点からいえば、1960年前後にアート・ブレイキーの主宰するジャズ・メッセンジャーズのリズムセクションの一翼担ったときの演奏が、飛び抜けて素晴らしい。ピアニストにはリーダーより伴奏にまわった方がよりイマジネイティブな演奏をする人が少なからずいるが、ティモンズもその一人だろう。ジャズ・メッセンジャーズ在籍当時のかれは、ひとかけらの迷いもなく、リー・モーガン、ベニー・ゴルソンといった同郷出身の、心を同じくする若い仲間たちとともに、思いきりのいいジャズを聴かせてくれた。p270

 僕がとくに好きなのは「ソー・タイアード」でアート・ブレイキーのアルバム『ナイト・イン・チュニジア』(邦題『チュニジアの夜』)に収められたこの曲の演奏はいつ聴いてもわくわくさせられる。ティモンズのソロもほどよく抑制が利いて、クリスプで、洒脱である。p274